メッセージ 大阪府立大学
▼SiMS全体責任者(大阪府立大学 学長)|▼SiMSプログラム責任者(大阪府立大学 学長補佐(教育))
辰巳砂 昌弘
SiMS全体責任者
大阪府立大学 学長
「平成25年度文部科学省により採択された大阪府立大学・大阪市立大学共同の博士課程教育リーディングプログラム「システム発想型物質科学リーダー養成学位プログラム」が7年目を迎えました。これまで大阪府立大学は、地域の発展に貢献するという公立大学の使命を着実に果たすと共に、高度な研究型大学として、技術集積型産業や学術の発展に貢献し、また、これらを牽引する多くの人材を世に送り出してきました。さらに、大阪府立大学では早くから博士後期課程教育に力を入れ、平成20年度に文部科学省振興調整費の支援により始まった「地域・産業牽引型高度人材育成プログラム」では企業インターンシップを含む優れた育成プログラムを開発し、多くの優秀な博士研究者を産業界へと輩出してきました。幸いにも、この実績が評価され、中間評価、事後評価ともにS評価を頂くことが出来ました。このプログラムは24年度より大阪市立大学・兵庫県立大学・大阪府立大学の3公立大学によるプログラムへと引き継がれました。本学、及び大阪市立大学の、このような世界的な研究実績、及び優れた教育資源と人材輩出の実績、さらに次にご説明する本プログラムのユニークな育成計画が、世界で活躍する第一級の博士研究者を育成するに相応しいものと評価され、本リーディングプログラムの採択に結びついたものと考えています。
さて、20世紀、多くの物質科学上の発見がイノベーションの発信源となったことは周知ですが、そこでは物質からデバイス、さらにシステムまでを包含する産業技術の高度な階層化が役割を果たしてきました。しかし近年、このような技術枠組みの硬直化が競争力の低下を招くことが認識され、これを克服するための「ことづくり」を中心とする産業構造シフトが始まっています。システム、事業的視点に立つ発想からフィードバックされた物質研究の推進が、国際競争力のある産業、また安全安心社会・持続型社会を支える産業の構築には必須の要素です。このため、「もの」の開発に「こと」の考え方をダイレクトに融合し、素材から機能分子・デバイス、さらにそれらを統括するシステムまでの階層が高度に融合された斬新な、システム発想型研究開発戦略を想起できる高度研究リーダーが今まさに求められています。このような問題意識に立ち、本プログラムでは、未来社会に対するビジョンを持ち、それを実現するためのシステムの考え方から発想できる「物質研究者」、また、物質科学の素養に基づいて新しいシステムを構築できる「システム研究者」を、産業界で指導的役割を果たしてきたスタッフを含めた産学協働体制で育成するプログラムを実施しています。
私達は上述したリーディングプログラムの実施を通して3つのことにチャレンジしています。一つは、世界で活躍できる産業リーダーとして「システムから発想できる物質研究者」、「ものから発想できるシステム研究者」という新しいタイプの研究リーダー像を確立し、その育成システムを構築しています。二つ目に、産業牽引型リーダーの育成に特化した本プログラムにより、日本の産業復興と博士キャリアパスをリンクさせ、優秀な学生が高い研究力を有して産業界へ進出する流れを構築しています。そして三つ目に、産学の多様な指導者が多面的に博士研究者を育成する本プログラムの実施を通して、新しい博士人材育成スキームを確立するための大学院改革を行っています。この三つのチャレンジが成し遂げられ、博士研究者の成功モデルが人々の視野に入ってくれば、博士研究者の産業界へのキャリアはさらに大きく拓かれるでしょう。また、多くの優秀な学生がそれに続こうとする、人材育成と産学協働の正の循環が生まれつつあります。このような循環から、地域社会発展への一層の貢献を目指したいと考えています。最後になりますが、本プログラムが、我が国産業界の一層の発展と大学教育の再生に貢献できるよう、産業界の皆様の一層のご指導ご鞭撻をお願いする所存です。また学生の皆さんには、誇りと希望を持って、自らの未来を拓く本プログラムへの積極的な参加を期待したいと思います。」

高橋 哲也
SiMSプログラム責任者
大阪府立大学 副学長統括
修了後の進路について心配することなくチャレンジをしてほしい。
このプログラムSiMSは5年間のプログラムです。従来、産業界に進路を求める多くの学生さんは修士修了後の就職を考えていました。それは一つの専門を学生時代に修得しておけば、就職後必要に応じて社内教育などを受けて専門の幅を広げていくことができたからです。そして、就職も学校推薦により短期間で決まり、それなりに研究時間を取ることができたからです。
しかし、時代の様相は全く変ってしまいました。修士時代に一つの研究室に閉じこもって研究しているのでは社会に出て活躍する場がとても限られてしまいます。グローバルに競争が激しい昨今、企業も余裕がなくなり、社内教育への投資も減っています。2年間研究期間があるといっても最初の年の前半は科目履修に追われ、研究をいくらも経験しないうちに、後半には就職活動に入ってしまいます。ですので、実質研究できるのは一年ばかりなのです。その間に国際学会で発表するなど現実的ではないのです。仮にできたとしてもそれは実験が不十分だったり、従来研究との比較評価が不十分だったりという問題が残っています。2年間に国内外に通用する研究成果をあげようとすると知識の幅、経験の幅を拡げることができません。
SiMSは5年間のプログラムです。じっくりと教育をします。知識の幅、経験の幅を拡げるためのカリキュラムを用意しています。大学だけで皆さんを育成しようとは考えていません。学外の優秀な方を講師として招き、また、刺激あるインターンシップの場を用意プログラムし、海外留学のチャネルを用意しています。みなさんは、視野を広げながらじっくりと研究ができるのです。一人の教員がすべてを指導しようとは考えていません。産業界で活躍した方にメンター(相談者)としてついていただきます。長年にわたって交流を深めていった海外の大学・機関と協定を締結しており、我々から顔の見えている研究者・教育者から指導を受け、そこで活動してグローバル研究を経験することができます。
このプログラムは産業界へ進出する人材育成を目的にしていますが、修了後の進路として大学や公的な研究機関を目指す研究者にとっても重要な役割を果たす育成プログラムです。SiMSの5年は、生活の心配をすることなく、研究に集中することができ、修士の2年と企業の3年の和に比べ、はるかに高いレベルに皆さんを導くことをお約束します。